「私も歯並びが悪いから、この子も遺伝かな…」

子どもの歯並びについて、このように感じている保護者の方はとても多いのではないでしょうか。

確かに歯並びは、歯や顎の大きさとの関わりが大きいので、遺伝の影響もあります。

しかし実際には、生活習慣や成長環境が原因になっていることも多いです。

これらが原因の場合には、早めに気づいて対処することで、将来の歯並びは大きく変えられる可能性があります。

今回は、小児矯正の視点から歯並びと遺伝・生活習慣の関係について、わかりやすく解説します。

歯並びが悪くなる原因は「遺伝」だけではない

歯並びは、確かに遺伝の影響もあります。

たとえば、「歯の大きさ」「顎の骨格」「顔立ち」などは、親から子へ受け継がれやすい特徴です。ですから、親子で似た歯並びになることも多いです。

歯並びが似ている親子を見ると、「やはり遺伝なのでは」と思われるかもしれません。でも実際は、「後天的な要因」が大きいと言われています。

後天的な要因というのは、成長過程での「生活習慣」「癖」「食事内容」「姿勢」などのことを指します。

歯並びは、生まれた瞬間にすべて決まるものではなく、成長とともに作られていくものだということです。

歯並びに大きく影響する生活習慣とは？

では、歯並びに影響する生活習慣を紹介していきます。

口呼吸

近年、子どもに増えているのが「口呼吸」です。

人間は本来、鼻で呼吸をする「鼻呼吸」が正常の状態です。ところが、口で呼吸をする「口呼吸」が習慣になってしまうことがあります。

口呼吸では、口がぽかんと開いた状態が続きます。そうすると、舌の位置が下がり、本来内側から歯列を支える力が弱くなります。

その結果次のような影響が起こり得ます。

• 歯列が横に広がらず狭くなる
• 前歯が出やすくなる
• 噛み合わせが不安定になる　など

噛み合わせの変化によって口が閉じづらくなり、余計に口呼吸が進んでしまうこともあります。

鼻炎やアレルギーが原因で無意識に口呼吸になっている場合も多いため、早めの気づきが大切です。鼻炎やアレルギーの疾患がある場合には、耳鼻咽喉科の受診が必要です。

指しゃぶり・舌癖・唇の癖

口周りに関係する癖も歯並びに大きく影響します。例えば、「指しゃぶり」「舌で前歯を押す」「唇を噛む、吸う」「爪を噛む」などの癖です。

これらの癖が長期間続くと、歯に持続的な力が加わるため、歯並びが乱れやすくなります。

指しゃぶりは、3〜4歳頃までに自然に減っていくことが多いですが、それ以上長く続く場合は歯並びへの影響が出やすくなります。

姿勢や食生活

歯並びは、口の中だけの問題ではありません。

猫背やうつむいた姿勢が続くと、顎の正しい成長が妨げられることがあります。

また、柔らかい食べ物が多かったり、よく噛まずに食べていたりすると、顎の発達不足につながることがあります。しっかり噛むことで顎の骨や筋肉が刺激され、歯が並ぶスペースが育ちやすくなります。

その他、片側ばかりで噛む癖、うつ伏せ寝、頬杖なども、歯並びに影響することがあります。

顎が小さい子が増えているって本当？

現代の子どもには、歯が並ぶスペースが不足しているケースが多くみられます。

顎が十分に成長していないため、永久歯がきれいに並ばない状態が起こります。

昔と比べて、食生活や生活スタイルが変化したことが顎の発達に影響している可能性があります。

永久歯が生えるスペースが足りないと、次のような状態になります。

• 歯が重なって生える
• ガタガタになる
• 外側に飛び出す　など

これらは遺伝だけが原因ではなく、顎の成長期の環境による影響が大きいです。

小児矯正でできること・できないこと

小児矯正では、顎の成長を利用して、永久歯が並ぶための土台作りをすることができます。小児矯正でできることは次のとおりです。

• 顎の成長をサポートする
• 歯が並ぶスペースを確保する
• 悪い癖を改善しやすくする　など

これらは、大人の矯正では難しい小児矯正のメリットです。

歯並びの状態によっては、小児期からアプローチすることで、その後の矯正治療がスムーズに進んだり、場合によっては本格的な矯正治療をせずに済んだりします。

歯を大きく動かす治療は永久歯が生えてから

小児矯正では、すぐに歯に装置をつける、というわけではありません。

成長を見守りながら、必要なタイミングで治療を行います。

もちろんお子さまの協力が必要不可欠なので、お子さまにもしっかり説明させていただいて、納得いただいてから、お子さまの成長ペースで進めていきます。

基本的に顎の成長を整えるのが「第1期治療」、歯並びを整える「第2期治療」という考え方で進めます。

歯の1本1本の位置を調整していくのは、第2期治療で行う治療法です。

悪い歯並びを放置するリスク

歯並びが悪い場合に、「遺伝だから仕方ない」と放置していませんか？

歯並びが悪い状態を放置すると、見た目だけの問題だけではなく、お口の健康や全身の発達にも悪影響が及ぶことがあります。

成長期の子どもは、歯や顎だけでなく、噛む・話す・呼吸するといった機能も発達途中です。歯並びが悪い状態が続くことで、次のような影響が出る可能性があります。

むし歯や歯周病のリスクが高まる

歯が重なっていたり、ガタガタしたりしていると、歯ブラシが届きにくい部分が増えます。その結果、磨き残しが多くなり、むし歯や歯肉炎を繰り返しやすくなります。

特に子どものうちに歯肉炎が慢性化すると、大人になってから歯周病に進行しやすくなることもあり、将来の歯の寿命に影響する可能性があります。

噛み合わせの不調が起こりやすい

歯並びが悪いと、上下の歯がうまく噛み合わず、特定の歯だけに強い力がかかることがあります。

その状態が続くと、顎が疲れやすい・食事に時間がかかる・左右どちらかだけで噛む癖がつくなどの問題が起こることがあります。

また、成長期に噛み合わせのバランスが崩れると、顎の発達や顔の左右差につながることもあります。

発音が不明瞭になることがある

前歯の隙間が大きい・歯が前に出ている・噛み合わせが深いなどの場合、「サ行」「タ行」などの発音が不明瞭になることがあります。

発音の癖が定着してしまうと、後から歯並びを整えても、正しい発音に戻すのに時間がかかるケースもあります。

学校生活やコミュニケーションへの影響を心配される保護者の方も少なくありません。

口呼吸が習慣化しやすくなる

歯並びや噛み合わせが悪いと、口が閉じにくくなり、無意識のうちに口呼吸になってしまうことがあります。

口呼吸が癖になると良くない影響がたくさんあります。例えば次のものがあげられます。

• お口の中が乾燥しやすい
• むし歯や歯周病のリスクが上がる
• 風邪をひきやすくなる
• 集中力が続きにくい　など

全身の健康にも影響が出ることがあるので注意が必要です。

将来の矯正治療の負担が大きくなることも

成長期に対応できたはずの問題を放置してしまうと、将来的に矯正治療の負担が大きくなってしまうことがあります。

具体的な例は次のとおりです。

• 歯が並ぶスペースが足りず抜歯が必要になる
• 治療期間が長くなる
• 矯正の負担が大きくなる　など

早い段階で歯並びの状態を把握しておくことで、今後の治療の選択肢が増えます。

「今は治療が必要ない」という判断ができる場合もあり、結果的に安心につながることもあるので、お子さまの歯並びで不安がある場合には、ぜひ一度ご相談ください。

まとめ

歯並びは遺伝だけで決まるものではなく、生活習慣や成長環境が大きく影響します。

早めに気づき、必要に応じて対策をすることで、将来の歯並びや歯の健康を守ることができます。

「矯正が必要かどうか分からない」という段階でも構いません。

まずは今の状態を知ることが、お子さまの将来への大切な一歩になります。

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なぎ歯科クリニック大島　理事長　杉本義樹